8.17.2000

No.0057

歯の喪失による弊害

 皆さんは【8020運動】を、もう既に御存知ですよね?『歯科なんでもコラム』でも時々取り上げられております。人の歯の数は、永久歯の場合では親知らずを除き基本的に28本あります。因みに、乳歯は20本あり生え替わりの時期には、前歯から脱落していき順次永久歯に生え変わっていきます。

 今回のお話は“歯の喪失による弊害”ということで、先ず「乳歯についてはどうなのか?。」について考えてみます。自然の摂理に従えば、それぞれの乳歯の脱落時期は、後から生え替わる永久歯によって、その喪失時期は決まってきます。しかし、虫歯や不慮の外傷等によって早期に喪失してしまうケースがあるわけです。そうしますと、どのようなことが起こってくると思いますか?。臼歯であれば‘噛みにくい’ということが、でてきますね。前歯でしたら‘喋りずらい’ですね。その様な状態を放っておくと、噛みやすい場所を探して偏った不自然な噛み方になってきます。喋る時も前歯がないと舌がいたずらに前に出てきてしまいます。大事な成長期に乱れが生じ顎の変形、舌突出癖による上の前歯と下の前歯が離れている状態(開口といいます)が生じる恐れがあります。又、軟食傾向がより強くなりやすく筋力の低下・姿勢の悪さ・免疫力の低下・不正咬合(矯正治療を必要とする噛み合わせ)へと移行していく可能性があるのです。乳歯が永久歯の運命を握っているといっても過言ではありません。

 話は永久歯に移りますが、奥歯を一本喪失した状態を治療せず放置した時に起こりうる変化・症状を列記しますと、

1)相対する歯(下歯を喪失していれば上歯)の挺出
  喪失した歯の空間に相対する歯が延びていく

2)喪失した歯の空間に傾斜していく
  空間の後ろの歯は前に倒れていき(近心傾斜)
  空間の前の歯は後ろに倒れていく(遠心傾斜)

3)傾斜したところに汚れがたまり歯肉の炎症を引き起こす

4)噛み癖をつくってしまい、顎のズレが生じてしまう

5)顎の筋肉の不調和による筋肉の疲労

6)顎関節症=口を開けたり閉じたりする際の痛み

 等が考えられます。

 たった一本の歯が喪失しただけで、これだけの問題の可能性が生じてくるのです。「たかが一本、されど一本」なのです。歯というものは単独では安定しないのです。歯とそれを支える顎、筋肉、舌、口唇すべてがバランスをとっているのです。歯の喪失がある方はこのような変化が生じる前に歯を入れることをお勧めします。

 一般に患者さんの多くの方は、外から見える前歯は‘すばやい治療’を望まれる方が多いのですが、事、奥歯になりますとそのまま放置している方が結構多いのが現状です。

 奥歯が喪失しますと必ずといって良いほど前歯に変化が生じてきます。

 例えば

1)前歯の歯と歯の間があいてくる
2)前歯が出っ歯になってくる
3)前歯がグラグラしてくる
4)口がうまく閉じれなくなる

  等です

 私達歯科医師は、患者さんの前歯を見ただけである程度奥歯の状態を予想できてしまうのです。それだけ歯は語ってしまうのです。奥歯に気を配ることが、前歯の安定につながるのです。このコラムをお読み戴いた方々には、忘れずにいて下さることを願っています。


河田先生

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